2009/03/10 驢鞍橋 上巻-31 - 菜花亭日乗
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2009-03-10 (Tue)  02:27

2009/03/10 驢鞍橋 上巻-31


【原文】
一日江州衆来り、国本にては、何れも本秀和尚の教ゑを承ると云。師聞て曰、一段の事也。此和尚は、人を損ふ事有べからず。今時道者と云人、先我能者に成て打上り、人を印可して、其儘人を悪くする也、然るに此和尚は、先我足ずに居らるヽ間、何として人を許されんや。師亦曰、其辺にては、若き衆、法を聞、伎量過ると云沙汰なしや。我少しあぶなく思ふ也。彼人沙汰無と云。師亦曰、其地の何某は、此前死苦に責られける間、今に頼敷思ふが、弥々修行募りて見ゆるや。彼人今程沙汰もなしと云。師曰、一旦死の来る事有とも、油断し娑婆ずきに成たらば、跡も無くなるべし。少々死の来る様也共、ひしと死機に成事は、功を積ずんば有べからず。我も六十余りにして、慥に是を知ると也。



【要約】
 ある日、近江の人がやってきて、「国元では、本秀和尚のおしえをうけている」と話す。
 老師はそれを聞いて言われた。「それは良いことだ。この和尚は人を駄目にする事はない。今時の仏教者と言われる者は、先ず自分が素晴らしい者だと思い偉ぶって、人を印可して、それによって人を駄目にしてしまうものだ。しかし、この和尚は、先ず自分が不十分なものとしておられるので、人を印可したりすることはない。」と。
 又、老師は言われた。「国元では、若い人が仏法を聞いて、能力が素晴らしいと言われるようなことはないのか。自分はその心配をしている。」と。その人は、「その様なことは言われていない。」と言う。
 老師は、又言われた。「近江の国の誰々は、以前死苦に責められていたので、将来を楽しみにしていたが、益々修行が進んでいるように見えるか。」と。その人は「近頃は、その人の話は聞かない。」と言う。老師は言われた。「一度、死の境地がやって来ることがあっても、油断し娑婆に気を抜かしたなら、跡形もなくなるものだ。少しぐらい死の境地が近いように見えても、心底死の気になることは、長年の修行を積まなければ出来ることではない。自分も六十歳を超えてから、確かにこれを知ることが出来た。」と。



【註】
 江州: 近江国 (おうみのくに) は、かつて日本の地方行政区分だった令制国の一つで、東山道に位置する。現在の滋賀県を範囲とする。江州(ごうしゅう)と呼ぶこともある。延喜式での格は大国、近国。古事記には「近つ淡海国」「淡海国」「近淡海国」とも記載された。(Wikipedia)


道者: 1 道教を修めた者。道士。2 仏道を修めた者。また、仏道の修行者。3 (「同者」「同社」とも書く)連れ立って社寺を参詣・巡拝する旅人。遍路。巡礼。道衆。


印可(いんか): 1 密教や禅宗で、師僧が弟子に法を授けて、悟りを得たことを証明認可すること。2 武道・芸道などで、極意を得た者に与える許し。免許。


ひし‐と【緊と/犇と】: [副]1 すきまなく密着するさま。しっかりと。ぴったりと。「―身を寄せる」「―抱きしめる」2 深く心や身に感じるさま。「真心を―感じる」3 強く押されて鳴るさま


 


【寸言・贅言】
道元は「生を明らめ死を明きらむるは仏家一大事の因縁なり」といい、正三は「死に隙を明ける」と言う。
 修行者にとって生死の問題は最大の関心事である。日常的な観点では生と死は対極的なものだが、仏教の地平ではそうではない。生死一如である。
 生きていても死んでいることがある。所謂「生ける屍」である。黒澤明の「生きる」の主人公はこれであった。しかし、自分が癌であることを自覚して後、本当に生きることとなる。我々の多くは、自分も含めて生ける屍状態であると言えないことはない。
 「末期の目」と言う言葉がある。芥川龍之介が遺著である「或る旧友に送る手記」のなかで使った言葉である。彼はこう書いている「唯自然はかう僕にはいつもよりも一層美しい。君は自然の美しいのを愛し、しかも自殺しやうとする僕の矛盾を笑ふであらう。けれども自然の美しいのは僕の末期の眼に映るからである。」
川端康成は、「末期の目」と言う作品を書いている。川端は実生活で「末期の目」で美を見た人である。駒子の美しさは末期の眼に映る美しさである。
死というフィルターを通すと生が美しく、またくっきりと見えるのである。
芭蕉の目も同じような深い目であったと想われる。
「道のべの木槿は馬にくはれけり」。


以上の意味で正三の「死の機」は「生の機」である。"



 

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最終更新日 : 2019-03-15

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