アンジェイ・ワイダ特集が放映される前に、アンジェイ・ワイダのインタビューが放映されたので見た。
第2次世界大戦から戦後、一貫してドイツ、ソ連の影響下に置かれたポーランド。
最初はナチスへの抵抗、次はソ連および傀儡政権への抵抗とポーランドの国民は苦難の道を歩んだ。
戦後、日本国民は食べるものもなく、経済的貧困に苦しんだが、ポーランド国民のような屈折した政治的苦しみは味わっていない。
ナチスへのポーランド市民の抵抗を描いた「地下水道」。
汚水だらけの地下水道を逃げ回り出口に辿り着いたが、其処には太い鉄格子がはめられていた。
そとは河である。広い川面の先の対岸には、映画に画面では何も映っていない。しかし、現実にはソ連軍が到着していた。だが、ソ連はポーランド市民の抵抗を援助しようとはしなかった。それが、歴史的事実である。ソ連は、ポーランドの支配の邪魔になるポーランドのナショナリストの滅亡を望んだのである。
なぜワイダは対岸にいるソ連軍を画面に出さなかったのか?
それは検閲のためである。
この番組はワイダが常に検閲と闘ってきた事を克明に描いている。
彼は言う。
「検閲を前にして、映画監督の態度は二つある。一つは映画を撮らないこと。もう一つは、検閲を前提にして映画を撮ること。自分は後者の態度を取った。」
「ソ連では撮影現場に、編集長がいて、台本・現場の撮影を逐一チェックするが、ポーランドにはこの編集長がいなかった。台本では簡単に書き、現場ではふくらまして描いた。」
「問題になりそうな場面は、抽象的に描いた。体制側も国民側もそれぞれの理解で映画を見るように。」
だから、検閲官の見ている川面の対岸の何もない画面にポーランド国民はソ連軍の高みの見物を見ているのである。
「灰とダイヤモンド」の最後のシーン、マーチェクがゴミ捨て場で死ぬシーンも同様である。
象徴の手法を用いて検閲をかわしているのである。そして、それが芸術的な効果を生んでいる。
最新作「カチン」は、大戦中ポーランドの将校が多数カチンで殺害されたことが、判明したがソ連はナチスの仕業と主張した。
戦後、ポーランド国民はそれはソ連の仕業と薄々気付いていたが、それを口にすることは出来なかった。
ソ連が崩壊した今、それはスターリニズムのソ連の行為であることは明らかになった。
スターリンは、日本の満蒙の軍人をシベリアに連れ去り、不条理な労働に牛馬のように働かた。酷寒の地で多くの日本人が故国を想いながら死んでいったことは周知の事実である。
人間が愚かである以上、独裁のような政治体制がどのような結末を迎えるか歴史が証明している。
独裁だけは避けなければならない。
祖国ポーランドを撮り続けたワイダの作品が明日から連日放映される。録画が忙しいことになるが、見逃す訳にはいかない。
【データ】
①ハイビジョン特集「映画監督アンジェイ・ワイダ~祖国ポーランドを撮り続けた男~」
チャンネル :BS2
放送日 :2008年 9月 8日(月)
放送時間 :午後1:00~午後2:50(110分)
番組HP: http://www.nhk.or.jp/bs/hvsp/
社会主義国ポーランドで、祖国が味わった現代史の悲惨を描き続けたアンジェイ・ワイダ監督の、検閲との攻防や自由な表現への戦いを新作「カティン」への道程の中に描く。
祖国ポーランドが体験した現代史の悲劇を描き続けてきた映画監督アンジェイ・ワイダ。82歳にして完成させた映画「カティン」はソビエトに殺され、しかも社会主義政権下で語ることもタブーとされてきた父親と同胞への思いがこめられた作品だ。そこにいたる道程には検閲との攻防や、ポーランド民主化運動との連帯など、自由な表現への苦闘があった。代表作をめぐる知られざるエピソードの数々を通してワイダ監督の闘いをたどる。
【語り】広瀬 修子
②アンジェイ・ワイダについては以下のWikipediaを参照。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%80
③アンジェイ・ワイダ監督映画放送予定
9月9日(火) 午後1:05~2:33 「世代」
9月10日(水) 午後1:05~2:38「地下水道」
9月11日(木) 午後1:05~2:45「灰とダイヤモンド」
9月12日(金) 午後1:05~3:47「大理石の男」
※後1:00~1:05「アンジェイ・ワイダ 自作を語る」を放送。
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最終更新日 : 2019-03-15