仕事を終えてから、岐阜市で開催の酒の中島屋主催の日本酒の会に参加した。
出来れば、毎月参加したい会だが「ざっぶんの会」以外は平日開催なので、仕事の都合で難しいこともある。
昨年の年の暮れの「フィールドの会」に参加できなかったが、後の話では、貴重な熟成酒が数多く並んだと聞き残念だった。
と言う訳で、新年第1回の今日は参加するべく、準備を怠らなかった。しかも、今日はバスで帰らなければならないので、JRの接続もすべて調査済みである。
さあ、出掛けるのみになった。
今日の会場は「楮」である。ここは、創作料理の店である。
伝統のある世界では、伝統と新生の問題が常に起きる。料理の世界も同様である。日本料理の世界は伝統格式の世界である。一流になる為には定められた技術を定められた場所で長く修行を積まなければならない。そこは伝統の世界である。
楮は若い料理人が新しい感覚で料理に取り組んでいる新生派である。しかし、よくある無国籍料理みたいなものではない。
店で設定されている季節のコースは、日本料理の風趣のある品書きで構成されている。
今日は、どんな料理にお目にかかることが出来るか、楽しみである。
開始時間の8時までの時間を利用して、書店で用を足し楮に着いたのが7時30分。
店を通り過ぎ、離れの朋を覗くと中島屋西川店主の姿が見える、参加人数が増え、離れでの開催になったようだ。
受付を済ませ、「利き酒メモ」を受け取る。
いつもとテーブル配置が異なっている。いつもは3の島にテーブルが並べられているが、今日は島は1つ。長い島が一つあり、テーブルの真ん中にローソクのランプが1列に並んでいる。
テーブルを挟んで両側に席があり、参加者はローソクを挟んで顔を向き合わせる配置になっている。
店主の話では、今日は茶会の「夜咄(よばなし)」の趣向になっていると説明があった。
薄暗い空間に身を置き、ローソクのゆらめく光に照らされて、落ち着いた時間の中料理と会話を楽しむ結構な趣向である。
筆者は、お茶の世界は門外漢で全く知識も経験もないが、お茶の世界では茶事というもてなしがあるそうである。
茶事という言葉は、古くは広く茶の湯全般を意味する言葉として用いられたらしいが、現在では茶の湯において食事(懐石)を伴った正式な客のもてなし方を茶事といっている。
茶事のうち冬の時期、長くなった夜を利用して、「夜咄」という茶事が催すそうである。
冬の夜長、一年を振り返り、また新年を迎え、ローソクの火の中ゆっくりとした心で一期一会の時を過ごすのである。
京都では、冬の時期この「夜咄」が観光としても、此処其処で開催されている。
高台寺で開催される夜咄。
http://www.kodaiji.com/event/09yobanashi.html
京の町家で行われる夜咄。
http://allabout.co.jp/travel/otokutrip/closeup/CU20050824A/
二人で大人の時間を過ごすのも良いかもしれない。
「利き酒メモ」を見ると、こちらも趣向に富んでいる。
<今日の贅沢飲み比べ>の趣向が東一大吟醸の垂直飲みである。
平成11年から19年までを揃えて利く趣向である。こうした会でなければ巡り逢えない企画である。
お酒もお料理も趣向を用意されて、客は楽しむばかりである。
苦労(?)して参加した甲斐があったというもの。
定刻の8時になり、中島屋西川店主の挨拶、楮店主の夜咄の説明の後、乾杯でいよいよ開始となった。
【出品酒】
筆者の個人的印象を備忘録として掲載する。
<乾杯>
今日の乾杯は、朱塗りの盃である。この日の為に楮さんが特に用意されたらしい。
底の浅い朱盃になみなみと注がれた梵をゆっくりとこぼさない様に口元まで運び、おしいただく。甘露、甘露!!
①梵 しぼりたて初雪 純米大吟醸 山田錦 活性生原酒 H20BY
加藤吉平商店(福井)"原料米:兵庫県特A地区 契約栽培 山田錦 精米歩合:40% アルコール度:18.0 日本酒度:+2 酸度:1.8
盃のためか香りはあまり感じない。口に含むと酸が膨らむ、味が濃い酒。後半麹の香りがある。後口はピリ辛。評価8.5。
<新酒しぼりたてのお酒>
20BYのしぼりたてである。
最近流行の無濾過生原酒がおおい。
中身のぎっしりと詰まった力のある酒が揃っていた。
②米百俵 純米生原酒 H20BY栃倉酒造(新潟)
原料米:新潟県産五百万石 精米歩合:55% アルコール度:18~19度
口に含むと先ず酸の押しが大きい。味の厚みはあるが、スピード感があり、引きが速い。味のふくらみはないがキレはよい。頭にパンチがあり、尻すぼみの印象。評価8.0。
③梅乃宿 純米吟醸無濾過生原酒 アンフィルタード H20BY
梅乃宿酒造(奈良) 原料米:山田錦 精米歩合:50% アルコール度数:17.5度 日本酒度:+3 酸度:1.4 アミノ酸:1.4 酵母:自家培養酵母
立ち香有り。甘い入り口、トロリとした舌触りと酸の厚みの後次第に辛くなる。後口はピリ辛。評価9.0。
④松の司 楽 純米吟醸 新酒生 H20BY松瀬酒造(滋賀)
原料米: 山田錦・吟吹雪 精米歩合:60% 酵母: 金沢 日本酒度: +3~+5 酸度: 1.54 アルコール度: 16~17度
甘い入り口、スッキリとした酸、梅乃宿に似ている。中盤から苦味を感じるが浮いてはいない後口は辛味系。評価9.0。
⑤松の司 純米吟醸 あらばしり H20BY松瀬酒造(滋賀)
原料米: 山田錦 精米歩合: 50%、55% 酵母: 金沢 日本酒度: +4 酸度: 1.4 アルコール度: 16~17度
甘い入り口、まったりとした酸の後ピリ辛味。評価9.0。
⑥神亀 上槽中汲 純米 無濾過生神亀酒造(埼玉)
原料米 : 五百万石 AL度 : 17.9°
バランスの取れた味、スッキリとしているが味の厚みがある底に苦味はあるが浮かず締めている。後口はピリ辛。評価9.2。
<今日のお燗酒>
燗酒は2種類。壁側に用意された炭火にかけられた鍋で湯燗である。客でもあり中島屋の親衛隊でもある2氏が湯燗当番である。
⑦玉柏 あんどん燗 特別本醸造蔵元やまだ(岐阜)
原料米: 飛騨誉 精米歩合: 56% アルコール度: 15% 日本酒度: +10 酸度: 1.4 アミノ酸度: 0.7
バランスの取れた偏りのない味。軽くスッキリとしている。味が薄い感じ。後口は良い。評価8.5。燗は飲まなかったが、もう少し味がふくらむかも知れない。
無濾過生原酒を飲み続けた後に飲んだ為、足を踏み外した様な印象だった、兎に角軽い、軽~い感じ。
⑧田酒 山廃仕込み純米西田酒造店(青森)
原料米: 華吹雪 精米歩合: 55% アルコール度: 15~16% 日本酒度: 3 酸度: 1,6
甘い入り口。甘味系の旨味の味わい。残り香に仄かなカラメル風の香を感じる。後口はピリ辛。評価9.0。
<今日の贅沢・「東一大吟醸」飲み比べ>
東一の大吟醸を平成11年から19年まで6本垂直に並べて利く趣向である。
昨年暮れの蓬莱泉の純米大吟の垂直飲みもそうであったが、日本酒の時と熟成を一度に賞味することの出来る贅沢な催しである。個人で出来ることではなく、座でなくては適わないことである。
⑨東一 大吟醸 H19BY 五反田酒造(佐賀)
原料米:山田錦 精米歩合:39% 酵 母:自社9号系 日本酒度:+5 酸 度:1.5 アミノ酸度:1.1
甘い入り口、軽い酸味の味わい。後半にまだピチピチ、ピリピリとした発泡感を感じる。火入れで1年熟成でこの新酒感、活発な酒である。評価9.2。
しぼりたての発泡感を感じる大吟醸として特徴のある東一は、熟成に適している力強さがある。
⑩東一 大吟醸 H18BY 五反田酒造(佐賀)
甘い入り口、酸の膨らみあり、スッキリとしている後口に軽いがまだピリピリとした発泡感を感じる。評価9.1。
1年の時の変化を感じることが出来る。酸は厚くなり、滑らかになり軽くなる。後口にまだ微かに発泡感が残る。
⑪東一 大吟醸 H17BY 五反田酒造(佐賀)
甘い入り口、滑らかな舌触り、酸のふくらみあり。後半に苦味が浮く。評価9.0。
以前から感じていることだが、3BY位の時は、熟成には厳しい様だ。味のバランスが崩れまとまりが悪くなる時期の様な気がする。以前別の銘柄でも感じた。
⑫東一 大吟醸 H16BY 五反田酒造(佐賀)
甘い入り口、落ち着いた穏やかな味、酸のふくらみは狭くなる。後口はピリ辛系だが良い。評価9.2。
4BYを超えるとバランスの崩れが無くなり、熟成酒の穏やかさが表面に出てくる。熟成酒に変化した時である。
⑬東一 大吟醸 H15BY 五反田酒造(佐賀)
甘い入り口、滑らかな舌触りバランスの取れた味わい、酸はスッキリとして終わる。後口良い。評価9.3。
滑らかさ・舌触りの良さが熟成酒の最大の特徴であることが理解できる段階である。時の恵みが日本酒の中にあることを実感できる。
⑭東一 大吟醸 H11BY 五反田酒造(佐賀)
軽い熟成香。甘い味、酸は薄い滑らかな舌触り、落ち着いた味わいの世界。残り香にも軽い熟成香有り。評価9.0。
前の15BYと4年間飛んでいるが、この間にピークが在った様に思われる。
香りに老香とは異なる熟成香がある。味は滑らかさに旨味を増している。温度を常温かぬる燗位まで上げると、この熟成段階に相応しい様に思われる。贅沢な食中酒としてみたい。
<熟・醇を飲む>
東一の他に熟成酒が2本、時を経て今日の出番を待っていた。
⑮黒龍 龍 大吟醸 2006年11月瓶詰黒龍酒造(福井)
酵母:蔵内保存株(自社培養酵母)使 用 米:山田錦 精米歩合:40%
香りは感じない、老香は全くない。滑らかな舌触り。味はバランスが取れた五味のピークのない味わいの世界。後口も癖が無く切れていく。新酒が綿の触感とすれは、これは絹の肌触り、滑らかな舌触りである。評価9.5。
黒龍は全て飲んだ訳ではないが、世の名声程のものではない様な気がしていた。仁左衛門、石田屋などの入手不能なものより「しずく」が一番良いと感じていた。
この龍は蔵で3年熟成させて出荷されたものを中島屋で2年熟成させたものだが、黒龍の評価を改めることにした。
日本酒の熟成の柱の1本は、滑らかさ・舌触りにある、サテンの様な絹の様な光沢のある滑らかさ・肌触りの快さにある。
これは時の恵みを得て生まれるものであって、醸造によって醸すことは出来ないもの。
⑯松の司 純米吟醸 あらばしり 本生 1997年瓶詰
松瀬酒造(滋賀)香りはない、老香も感じない。甘い入り口トロリとした味わい。滑らかな甘い舌触り。後口はやや残るものがあるが気にはならない。評価9.0。
生の熟成の全般的な印象は、滑らかな熟成酒の良さはあるが、味わいが重い印象がある。後口に向かって爽やかに切れていく事が難しく、何か残るものがある様な気がする。
今日の企画は、新酒の活気に満ちた躍動感と時の恵みを得て穏やかに滑らかに変化していく両方の日本酒の世界が理解できる企画であった。
東一の垂直飲みは、両者を繋ぎ、その間の時の変化を辿ることの出来る貴重な体験であった。