丸善に寄り本を物色した後、外に出ると折悪しく雨が降り始めた。雨粒が傘に音を立て、地面の雨の跡は大きい。
傘も持たずに慌てふためいて駆けてくる若い女性とすれ違いながら、伏見までの間を心配しながら歩いたが、ズボンの裾は濡れるほどではなかった。
伏見駅から一本南の通りを東に入ったさかなやま本場店の入り口にはMマネージャーが立っておられた。
お聞きすると参加者30名、蔵元を入れると40名近い参加者らしい。
会場にあがると、既に参加者は着席、開始を今かと待っている状態。皆さんの気迫の程が分かる雰囲気である。
金曜日に定例会でお会いした人たちも、此処其処に見える。
テーブルには酒、付き出し、仕込み水が既にセットされている。
間もなく、主催者の挨拶があり、会が開始された。
会場が「さかなやま」の冷やおろしの会は今回が初めてだそうである。
【出品酒】
配布された一覧表には、参加蔵8蔵が3銘柄ずつ出品しているので24銘柄記載されているが、実際には蔵持参の酒が在った様だ。
ここでは、筆者が承知しているものだけ列挙する。
銘酒、料理に加えて蔵元8名との懇談。どれ一つ取っても内容が濃いものばかり、2時間半ですべてをこなすのは無理であった。
蔵元さんとの会話に時を忘れている内に通り過ぎて、利くことが出来なかった酒(N/Aと記載)もある。
(1)陸奥八仙 特別純米 瓶火 ひやおろし
"冷や:滑らかな酸、厚い味。後口はやや重い。評価8.0。
燗: 軽くなり味のスピード感が増す。酸は軽く滑らか。後口はピリ辛。評価8.5。"
(2)陸奥八仙 瓶火 純米吟醸
香りあり。甘い入り口、軽めの酸が滑らか、苦味・辛味もあるがバランスが取れている。後口のキレ良い。評価9.0。
(3)陸奥八仙 特別純米ISARIBI
厚い酸の味の後苦味。後口はピリ辛。評価7.5。
陸奥八仙は、よく知っている酒である。香りが高く酸のふくらみがある押し出しの良い酒である。冷やおろしの温度変化が面白かった。
蔵元さんのお話では、八戸は港だが仕込みは山からの水を井戸でくみ上げているとのこと。
1月は難しいが2月ならば蔵見学が可能とのこと、一度青森まで遠征してみたいものだ。
(4)澤の花 秋味 特別純米 ひやおろし
香りに特徴がある。軽い滑らかな入り口。甘味の後軽い酸の味後口は癖が無く嫌味がない。評価9.0。
(5)澤の花 純米吟醸
バランスの取れた味、苦辛なし。後口も良い。評価8.5。
(6)澤の花 純米大吟醸
酸のふくらみ広がりがある。苦味はあるが底に抑えられている。後口は軽い辛味系。評価9.0。
澤の花は何度目かだが、バランスの取れた良い酒である。
(7)蓬莱泉 特別純米 夢筺 ひやおろし
蓬莱泉にしては、入り口の甘味は感じない。スッキリとした味わい、印象は辛口である。評価8.5。
稲武、関谷醸造吟醸工房近くの年間通し15の℃トンネル内で半年間熟成させたもの。
(8)一念不動 特別純米
酸味の厚い味、純米らしい旨酒。苦味はあるが浮いていない。後口は軽い辛味系だが嫌味はない。評価8.0。
燗に適しているはずだが、利けなかった。
(9)蓬莱泉 純米大吟醸 空
N/A。利けなかったがよく承知している。
(10)蓬莱泉 純米吟醸 熟成生酒 和
熟成味を感じる入り口、甘味のある軽目の酸の味わいの後、苦味。後口は軽い辛味。評価8.0。
これも燗に向いていると思うが利けなかった。
(11)尊皇 月読みの宴 ひやおろし
N/A
(12)夢山水十割 奥 純米吟醸原酒「旬」
酸味の厚い酒、旨酒。後口は辛味系。評価8.0。
(13)夢山水二割二分 奥 純米大吟醸 生酒
立ち香は吟醸香ではない麹の香りか? 滑らかな酸のふくらみがあり、苦・渋はない。後口は辛味系、キレはよい。評価9.0。
贅沢な酒である。酸のふくらみ滑らかさ、後口の切れの良さに精米の贅沢さが現れている。
立ち香が吟醸香系でないのが気になった。熟成の温度が高いのだろうか?
(14)鯨波 純米 ひやおろし
癖のない滑らかな入り口、バランスの取れた酸の味。後口は軽い辛味。評価8.8。
(15)鯨波 純米
N/A
(16)鯨波 純米吟醸 生詰

甘い入り口、広がりのある滑らかな酸、味のバランスが取れている、苦味はあるが底に抑えられている。吟醸酒らしい世界。後口も癖はない。評価9.2。
鯨波も良く承知している酒である。酒の会などで鯨波は瓶ごとに当たり外れがあると冗談が出たりするが、今日の酒は、その意味で言えば当たりである。
純米吟醸は良かったが、19BYはもう蔵では売り切れだそうである。酒販店にあるか探すしかない。堀一さんにはあるかも知れない。
(17)三重錦 純米 2号須弥酒 ひやおろし 生詰
N/A
(18)三重錦 純米 3号 うすにごり 生酒
甘い入り口、酸のふくらみがあり滑らかな舌触りの後苦味、味の遷移がはっきりしている。後口はピリ辛。評価8.0。
(19)三重錦 山廃純米 生酒(硝酸カリウム無添加)
N/A
2種類も利けなかったのは残念だった。
(20)萩乃露 純米ひやおろし(辛口純米+山廃純米ブレンド)
山廃の風味の入り口。酸の厚みあり、苦みは底に抑えられている、渋味はない。後口は滑らかで癖がない。評価8.5。
(21)萩乃露 吟醸純米 渡舟 無濾過生原酒
酸の厚い旨酒。純米酒の風格。後口は辛味系。評価8.0。
(22)萩乃露 吟醸純米 山田錦 直汲み 生酒
N/A
蔵元さんは名古屋出身の方、日本酒の会sake nagoyaの滋賀県の蔵特集の歳にもお目に掛かったが、改めて色々お話を伺った。
今日の趣旨と離れるが、純米大吟醸の熟成酒を造っておられるとのことで機会があれば利いてみたい。
熟成酒の世界の地平も広がっている。
(23)万齢 特別純米 ひやおろし 原酒 生詰
酸味の厚い味、後苦味が来る。評価8.0。
(24)万齢 特別純米 超辛口 鍾馗

軽い入り口。バランスの取れた味わい、酸の重さが無くバランスの取れた味わい、苦味はあるが底に抑えられている。後口の癖は全くない。冷やで飲む食中酒として最適。燗にすれはふくらむ気がするが利いていない。評価9.0。
(25)万齢 大吟醸 出品仕様雫搾り 小松大祐

軽い入り口から、すーっと入り込むと広がりのある大吟醸の世界に導かれる。軽く透明な味わいはバランスが取れて偏りはない、苦味はあるが底に抑えられている。評価9.5。
万齢を利くのは今日がはじめて。昨日やきとり吉兆で万齢の会が行われたのは承知していたが、出席すると3連投になるので仕事を考え自重したが、今日の出品酒の中にあって良かった。
銘柄ごとに味わいがかなり違い、味の造り分けがはっきりとされているのを感じる。
冷やおろしは標準的な旨酒の印象だが、超辛口の鍾馗はバランスの取れた良い酒である。食中酒として料理に合わせやすい酒と思った。
「万齢 大吟醸 出品仕様雫搾り 小松大祐」は、これぞ大吟醸の世界。冷やおろしの会の趣旨からは離れるが、この様な酒に遭遇すると出席して良かったと思わされる。
蔵元・杜氏である小松さんの個人名を冠した最高のこの酒は、わずか27本しか造られなかったものだそうである。
アルコールが添加されることによって導き出される軽やかな広がり透明感のある上品さは純米大吟醸では得られないものと考える。
この酒のアルコールについて小松氏にお聞きすると、2年間熟成させたものを使用しているとのこと。磯自慢の蔵見学の祭、高価な醸造用アルコールがタンクで熟成させてある説明を受けたことを思い出した。
小松酒造は年間石数170石だそうである。手造りの良さが現れている酒質である。
【料理】
さかなやまは文字通り魚の店である。
今日も魚の肴が次々に運ばれた。
料理が運ばれる際、一言説明があるのだが、利くのと話すことと、食べることに忙しく、お品書きもないので料理の内容が判らないもの・間違っているものもあるかも知れない。また、写真を撮っていないものがあるかも知れない、念の為。

口取り。胡瓜の紅葉和え

口取り、秋刀魚か鰯の和え物。

秋刀魚(?)の唐揚げの甘酢あんかけ。

秋刀魚の輪切りの唐揚げ。骨まで食べてしまいたくなる様にカリッと揚がっている。美味しい。

お造りの盛り合わせ。
一番下が、ハマチ。
二番目左から、鮭、鯛、鮪。
上の段左から、薬味の岩のり、山葵おろし、
上段真ん中は、ハマチの細切りを薬味に和えたもの(?)
上段右は、秋刀魚の細切りのなめろう風なもの。
刺身は、それぞれ新鮮でプリプリとハマチ、鮭、鯛、鮪らしさが楽しめるもの。鮪は赤身という寄りトロに近い脂の旨みがあるもの。本鮪か?

サラダ。焼目がついた白いものは豆腐か?
食べられなかったので分からない。

白身の肴の唐揚げ。河豚にしては平たいだろうか?

小鯛の塩焼き。もう料理は終わったと思った頃に出てきた。
小型だが美味しい。誰も食べないので2匹目も堪能した。
【感想】
1.お酒・肴・蔵元 3拍子揃った、内容の濃い会であった。
全種類の酒を利くことは出来なかったがやむを得ない。
運営としては、酒がテーブルに滞留しない様に、最後は順番ごとに並べていただけると良かった。そうすれば、利き逃しが防げるかも知れない。
内容の濃い会なので、来年も開催して欲しいものである。テーマを変えて、その前にやっていただいても良い。
2.未知との遭遇
万齢は未知の銘柄であったが、良い酒であった。全国には良い酒が沢山ある。銘酒の探究に尽きるところはない。
四国もそうだが、佐賀にも良い酒がある。東一、鍋島に万齢も加えなければならない。
日本酒の会sake nagoyaで佐賀の酒大会が企画されないだろうか。佐賀は遠いな~。
3.雰囲気
会場はほぼ貸し切りだった様で良かったが、一部の人が宴会モードで騒いでいたのはマナー感覚に乏しい。
酒は本来楽しむものであるからしめやかに飲むものではないが、隣のテーブルの会話に妨げになる様な大声のはしゃぎ・嬌声は、見苦しいばかりか迷惑である。
若者のコンパではなく、大人の酒の会なのだから、酒に飲まれない大人の強さが必要である。
常日頃楽しんでいる多くの日本酒の会が大人の会なので、そのように感じた。
【データ】
「ひやおろしを楽しむ会」
主催者: 酒泉洞堀一&さかなやま本場御園店
とき:2008年9月21日(日)
17:30~20:00
ところ:さかなやま本場御園店
(名古屋市中区栄1-5-14)
会費:5,000円
参加蔵:
・万齢(佐賀県唐津市/小松酒造㈱/小松氏)
・萩乃露(滋賀県高島市/福井弥平商店/福井氏)
・三重錦(三重県伊賀上野市/中井酒造場/中井氏)
・鯨波(岐阜県中津川市/恵那醸造/長瀬氏)
・蓬莱泉(愛知県北設楽郡/関谷醸造㈱/関谷氏)
・澤の花(長野県佐久市/伴野酒造㈱/伴野氏)
・奥 焚火(愛知県幡豆郡/山崎合資会社/山崎氏)
・陸奥八仙(青森県八戸市/八戸酒造㈱/駒井氏)