今回のテーマは熟成の温度である。
日本酒の熟成の辿る経路は、まだはっきりとは解っていないと言えるだろう。日本酒好きにとって大いに関心のある問題である。
店主は、温度の問題を、同じ銘柄を3度以下の冷蔵庫と常温(冷暗所)で1年以上保管したものを提供して、個人では出来ない研究領域に参加者を招待して、料理は季節の鰻料理を合わせるという日本酒マニアにとって真に贅沢な企画である。
【出品酒】
提供されている銘柄は、15種類である。いずれも名だたる銘酒ばかりである。しかも、時の洗礼を受け熟成されたものである。
生酒が多く生酒の熟成の研究としても興味深い企画である。

左から奥。右端は⑮の篠峰
①奥 夢山水十割 無濾過無調整原酒 生 19BY
香りはあまりない。フルーティな酸が中心の味。後口に何か残るものがあり、その後辛味系の後口。評価8.5。
②奥 夢山水十割 無濾過無調整原酒 生 2004BY常温熟成
カラメルの香り。酸はあるがふくらまない。味わいは辛口でスッキリとしているが、19BYと比べ滑らか丸い舌触りで熟成した味のまとまりがある。評価9.0。
③悦凱陣 赤磐雄町 手造り純米酒 山廃無濾過生 18BY 冷蔵熟成
香りはない。酸はあまり広がらない、真ん中に集まる傾向の味。発泡感を感じた。評価8.0。
④悦凱陣 赤磐雄町 手造り純米酒 山廃無濾過生 18BY 常温熟成
軽いカラメル臭。酸のふくらみあり、後口に熟成香あるが老香ではない。評価8.5。
⑤悦凱陣 讃洲雄町 手造り純米酒 山廃無濾過生 18BY 冷蔵熟成
甘いバランスの取れた酸。後口も癖無い。評価8.5。
⑥悦凱陣 讃洲雄町 手造り純米酒 山廃無濾過生 18BY 常温熟成
酸のふくらみあり、味わいは辛口になる。後口の癖はない。評価8.0。
⑦櫛羅(くじら) 純米吟醸 自家栽培山田錦2002 冷蔵熟成
香りはない。酸はあるがふくらまない。まろやかさがある。後口も癖がない。評価8.5。
⑧櫛羅(くじら) 純米吟醸 自家栽培山田錦2002 常温熟成
仄かなカラメル臭。バランスの取れた酸の味。後口の癖はなく、良い。評価8.8。

⑨善知鳥 百四拾 大吟醸 17BY 冷蔵熟成
香りはない。甘い入り口、酸はあるがふくらまない、丸みのある滑らかな舌触りとスピード感のある味。後口のキレがよい。評価9.5。
⑩善知鳥 百四拾 大吟醸 18BY 冷蔵熟成
軽い香りあり。酸の広がりがあり、中に取り込まれる味わいがある。ただ広がったまま締まらない感じがある。評価8.5。
⑪善知鳥 百四拾 大吟醸 19BY 冷蔵熟成
甘い入り口。酸味の厚みはなく、軽い大吟醸の広がりがある。後口のキレ良い。評価9.0。

⑫久保田 翠寿 大吟醸生酒 13BY 冷蔵熟成
香りはない。酸のふくらみのある味。後口は残るものあり。評価8.0。
⑬出羽桜 一耕 純米生酒 13BY 冷蔵熟成
カラメル臭。酸中心の味わい。残り香もカラメルの香。評価7.5。
⑭蓬莱泉 吟 純米大吟醸生酒 17BY 冷蔵熟成
香りはない。酸のふくらみは残っている。後口のキレが良くない。残り香は仄かなカラメル香。評価8.8。
⑮篠峯 山田錦 大吟醸 冷蔵2年熟成
香りはあまりない。酸はあるがあまり膨らまない。後口に残るものがある。評価8.5。
①から⑧までの同じ銘柄の冷蔵・常温比較は、どちらとも言えない結果が面白かった。しかし、他面困ったことである。
悦凱陣の赤磐雄町と讃洲雄町は逆の結果になった。同じ雄町でも産地の差が熟成方法を分けることになるのか。
善知鳥については、17BYの滑らかさスピード感のあるキレが良かった。18BYはまだ熟成としてのまとまりを得る段階ではなかったようだ。19BYは通常の広がりのあるスッキリとした大吟醸の世界。それぞれ、個性が感じられて良かった。
この結果だけで言えば、大吟醸を寝かすなら2年以上寝かしたいと言うことになる。
善知鳥に比べると、⑫~⑬の生酒は差を感じた。これも、この結果だけから言えば、5年以上の熟成は火入れが望ましい。もしくは、-5℃に近い温度帯で熟成させれば違った結果になるかも知れない。
日本酒の熟成酒の世界には広大なフロンティアが広がっている。個人では研究が難しいが、酒屋、料理店の企画があればフロンティアの探検が出来る。長い楽しみになりそうだ。
【今日の料理】
安兵衛さんの日本酒の会は、日本酒も贅沢だが、料理もまた贅沢である。
居酒屋と違って、本来の日本の料理には季節感がある。安兵衛の料理には季節感がある。
今日は、鰻である。店主は「個人的に鰻の蒲焼きと熟成した日本酒の相性は抜群であると思っている。」と品書きに書いている。
楽しみである。


最初は食前酒の代わりに、日本酒ゼリー。
洒落ています。

前菜。左から鱧の南蛮漬け、鱧の真子の玉子寄せ。南蛮漬けは何でも好きだが。鱧は初めて贅沢な南蛮漬け。鱧の真子の玉子寄せは、真子のプリプリした食感が何とも小気味よい。
右下は、鰻の肝唐揚げ。

お造り。
左上、真蛸、鱸(すずき)、下は生本鮪。
生本鮪の赤身は味が濃い、旨みがある、日本酒であれば純米酒。
真蛸も柔らかく、当たり前ではあるが蛸の味がする。スーパーで売っている蛸は、蛸ではあるが、蛸の味はしない。

汁。 う鍋。
三つ葉、葱、しめじ、春雨、丸焼きの鰻が味醂と塩味のだし汁の吸い物になっている。これは、初めて食べたが、美味しかった。
葱-ベストの加熱具合、口に入れ噛むとシャキシャキした食感の後、真ん中から葱の甘味・旨みが出てくる。
鰻-うなぎの油と香ばしさが口中に広がる。
汁-味醂の甘さと塩味と出汁のバランスが絶妙。お酒も入っているだろうな。
う鍋は掛け値無しに美味しかった。これは、お客に出すタイミングが難しいと思う。

焼き物と箸休め。
上から、骨せんべい、う巻き
下左は蒲焼き、右は白焼。
今日初めて、日本酒の肴には蒲焼きより白焼きが合う事が理解できた。骨せんべい、肝焼で一杯ではなく、贅沢だが、白焼きで日本酒を楽しみ、食事は蒲焼きでが良い。これからはそうしよう。

変り鉢。鱸の入出汁、青唐、赤パプリカ、薬味。
夏の鱸の旬の味。白身と濃いめの汁。

酢の物。 うざく(鰻、もずく、胡瓜)
鰻と胡瓜のバランスを変えて日本酒に合わせる事が出来る。

留め。 鰻茶漬け。
もう満腹なのだが、鰻の茶漬けは美味しい。
毎回印象に残る料理があるが、今日はう鍋、鱧の真子の玉子寄せ、鰻の白焼きだ。
安兵衛の会は、会場も綺麗な座敷で、この会だけの貸し切り。参加者は日本酒の愛好者で気持ちは同じ、酔っ払いは居ない。
日本酒は銘酒、料理は季節の旬菜。
酒も肴も空間も時間も吟味された贅沢さがある。実に気持ちの良い会である。
次回はどんなお酒と料理を出していただけるのか今から楽しみである。
今日は、昼は「醸し人九平次」の蔵見学と九平次を飲む会。夕方からは安兵衛とダブルヘッダーで嬉しい悲鳴だった。贅沢な感謝の日だった。