2007年は記録されたものだけで大凡550銘柄の日本酒を味わった。
その中で、特に印象的だったものを一覧にしてみた。
数多い銘柄の中で選び出すことは意外に難しいので、特定名称の分類ごとに印象に残った銘酒を抜き出した。勿論、一覧に無い日本酒にも美味しい日本酒はたくさんある。今年初めて利いた酒を抜き出したので、昨年までに既に利いている酒は乗せていない。
【大吟醸】
純米大吟醸・大吟醸合わせ20銘柄になってしまった。これ以上絞り込むのに忍びない、銘酒達である。醸した杜氏さんに感謝する一品達である。
味のふくらみ・豊かさなら純米大吟醸だが、品位・綺麗さは大吟醸である。
(数字はは順位を表していない。単なる番号である。)
①越乃寒梅 超特撰 大吟醸
吟醸香有り。甘い入り口であるが、ふくらみがあり、広がりもある。酸味はあるが厚くはない。調和した味で偏りはない。大吟醸であるがピリ感はない。残味は苦味無く良い。端麗ではあるが旨みがある。是は一級品である、越乃寒梅を見直した。
②七本槍/袋吊り斗瓶取り大吟醸・金賞受賞酒
吟香あり。バランスの取れた味だが甘さのある味。後口は辛くなく、良い。上品な吟醸の世界。
③京ひな 大吟醸 金賞受賞酒
軽い穏やかな世界だが枯れては居ない。五味のそれぞれの味がせず、味の厚みを感じるのみ。丸い酸が味のベースになっている。18BYとは思えない落ち着いた滑らかな世界。熟成酒のイメージがある。
④田酒 純米大吟醸 亀甲泉80周年記念バージョン
"味は、ハイスピードである。口に含むとスッと口の中に広がり入り込み、バランスのとれた吟醸酒の世界を感ずると直ちに消えてしまう切れの良さである。
酒米は山田穂だそうで山田錦の親筋らしいが、山田錦に比べると鋭く切れがよい、一方山田錦のようなゆったりした酸を大らかに感じることはない。
スピード感のある、切れ味の鋭い、後口の良いスマートな後味の酒であった。
⑤香露 大吟醸
広がりのある落ち着いた大吟醸の世界。九州にこの酒有り。
⑥田酒 純米大吟醸斗壜取
入り口は甘くふくらみ、広がりがあり、調和のとれた味で、品がよい残味も軽い苦み系だが気にはならない。
⑦作 雅乃智 源之酒 純米大吟醸 17BY
軽い吟香、口に含むと広がり有り、調和した味で苦味辛味もあるが抑えられている。後口は軽い辛味。
⑧十四代 大吟醸 中取り 17BY
香りはあまり無い。広がりのある調和した味、スッキリとしている、丸みはあまり感じない。十四代らしくない、善知鳥に近い世界。後口は軽い苦味でスッキリ切れる。
⑨清泉 大吟醸「亀の翁」
軽い入り口。バランスの取れた味で、上品である。後口も良い。香りは少ない。
⑩蓬莱泉 純米大吟醸 はるのことぶれ3ヶ月熟成
甘くバランスの取れた厚みのある味。底に苦味が隠れている。後口はよい。
⑪美濃天狗 いひょうえ 18BY生原酒
軽い吟香あり、甘い入口で広がりのある吟醸酒の世界。バランスの取れた味だが、敢えて言えば甘苦系。後口の最後に僅かにピリ辛あり。
⑫大吟醸 瓢太閤
甘い入口の大吟醸の世界。苦味はあるが底に抑えられているために味を締めている。
⑬大吟醸 山丹正宗 17BY
入口は甘く、広がりのあるバランスの取れた大吟醸の世界。後口も良い。瓶冷蔵とのこと。
⑭大七箕輪門 生酛大吟醸
バランスの取れた酸味がある味。苦味は底に抑えられている。後口良い。
⑮白吟のしずく 純米大吟醸
立ち香は強くないが香りよい。甘い入り口、広がりあり、バランスのとれた味で大吟醸らしい世界。後口も良い。
⑯純米大吟醸 青乃「無」
軽い入り口、広がりのある大吟醸の世界、酸は薄い、さらさらとした味上品である。かすかな苦味が締めている。後口もスッキリしている。新潟の端麗酒の世界。
⑰新政 大吟醸 佐藤卯兵衛
薄めの酸。広がりあり、大吟醸の世界。苦辛無し。残味は酸味系。
⑱小左衛門 純米大吟醸 斗瓶取り 18BY
甘い入り口の広がりのある世界。大吟醸であるが味も厚い風格のある酒。後口はピリ辛系。
⑲松の司 瀬戸清三郎
純米大吟醸 落ち着きのある世界。バランスのとれた味で偏らない。京ひなに比べると味が濃い。甘味、酸、苦味すべて揃っている。後口はやや重い。
⑳初夢桜 純米大吟醸
軽い入り口で、五味のバランスが取れている。後口は軽いピリ辛。
【吟醸酒】
吟醸は難しい。造り手は品質と価格両にらみになる。
①獺祭 純米吟醸 遠心分離50 山田錦
甘い入り口。調和の取れた酸味。後口嫌味無い。
②栗駒山 純米吟醸・山田錦
スッキリとして滑らか、バランス取れている。上品な風格有り。残味の苦味が浮いてこないのがよい。
③小左衛門 純米吟醸(播州山田錦) 18BY 無濾過生
香り有り。軽い入り口で広がり有り、軽めの酸味が丸く感じられる。後口は微かに辛味。
④七本鎗 純米吟醸 玉栄
香り無い。熟した滑らかな味。バランスの取れた世界。後口も良い。
⑤小左衛門 純米吟醸 13号 播州山田錦 斗瓶取り18BY
バランスの取れた味。広がりもある。苦味あるが底に抑えられており後口も良い。
【純米】
純米酒は、味のある酒が多い。味の幅も広い。酸・甘のはっきりしているものも多い。個人の嗜好により好みが別れるランクである。
此処ではバランスの取れた、筆者の嗜好による吟醸風の風格のものが選ばれている。
①月山 純米無濾過生原酒 五百万石,神の舞70%
バランスの取れた味。酸味が中心。底に苦味あり。後口は苦辛。
②七本槍 純米 80%精米生原酒
香り無い。バランス取れている。酸は残っている熟成酒、まろやか。後口良い。
③小左衛門 特別純米
味はスッキリとしている、渋・辛はないが後口に苦味がある。
④貴 特別純米ひやおろし 山田錦・60%
バランスの取れた入り口で、酸も丸い。後口も良い。
⑤酒呑童子 純米 ひやおろし
フルーティな酸味の味。底に苦みあり、後味はピリ辛系。吟醸造り。
【本醸造】
本醸造は、造り手の考え方が現れるランクである。手を抜いたものはそれなりに、手を抜かずに造られたものは、吟醸酒にも勝るものがある。流通・酒販店の品質管理の影響も受けやすい。
評価できないものは添加アルコールのどろりとした酸味、保存の良くないものはビロビロとした締まりのない酸味がある。
①始禄(中島醸造) 三百年 爽 (本醸造 速醸仕込) 17BY
火入 異臭無く、バランスの取れた旨みのある酒。後口も癖はない。
②玉桂(関谷醸造) 本醸造
バランスの取れた味、味の癖がない、スッキリとした旨さ、冷やでも燗でも良さそうである。晩酌の酒の一番手。
③美濃天狗(林酒造) 本醸造 生詰
入り口は甘く、トロリとした舌触り、豊かな酸を感じるがバランス取れている。味が濃い。後口は苦味系だが気にならない。
④清泉(久須美酒造) 特別本醸造
香りはない。厚みのある辛口の酒、味はバランスがとれている。食中酒として良い。
⑤萬寿鏡(マスカガミ) 甕爽々 本醸造生貯蔵
厚みのある味。アルコール臭無し。美味い本醸造。
【熟成酒・古酒】
今年は熟成酒に関心を持った年であった。冷蔵技術の発達により熟成酒の味わい・風格も幅が広くなり、予測できない世界を持った熟成酒に遭遇する楽しみがある。
熟成酒の特徴は味の滑らかさ、落ち着き、雑味のなさである。酸味は枯れているものもあればまだ活発な酸味を持っているものもある。
香りは、幅が広い。老香・セメダインの様な化学臭は評価できないが、紹興酒のような香り、カラメルのような香ばしさ、林檎のような、サイダーのようなフルーティな香りを持つものもある。
二度と飲むことが出来ないものが多く、どんなものに出会うかスリリングな楽しみがある、これから期待される分野である。
①熟成酒 芳水 純米大吟醸 平成15年12月瓶詰
入口は甘く、バランスのとれた厚みのある味。落ち着いた熟成の良さを感じる。残味は仄かな苦味。
②松の司 陶酔 大吟醸 平成16年6月瓶詰
香ばしい香り。熟成の旨み有り。
③梅の宿 純米吟醸アンフィルター 平成15年11月瓶詰
滑らかな熟成酒。軽いが、枯れてはいない。厚みのある酸が残っている。苦甘が底にある。
④長珍 純米大吟醸 無濾過 火入れ 13BY
鼻に近づけるとフルーティな吟醸香、口に含むと林檎のような爽やかな香りがする。最初甘いが次第に辛くなる。厚みのある味であるが、透明感もある。後口は軽い辛口。
蔵見学の際利かせていただいたもの。
熟成酒でも香りがよいものを創る事ができる証明である。市販されていないのが残念である。
⑤天狗舞 古古酒大吟醸 H16年12月瓶詰
香りはない。滑らかなバランスの取れた、軽い旨みの味。表現が難しいが、刺激的でなく、穏やかな、滑らかな、嫌味のない、品の良さを感じる。後口のキレも良い。6年の古酒だが老香は全くない。
⑥隆 純米大吟醸 16BY
カラメルの香り、香ばしい。バラス取れた後口の良い世界。
⑦白露垂珠 純米大吟醸 氷温3年熟成酒 改良信交 生詰
変な香り無い。バランスの取れた丸い熟成酒の世界。後口はピリッとして、微かに苦い、珍しい後口。
⑧天狗舞 石蔵 山廃純米吟醸本生 平成17年1月瓶詰
香ばしい香り。旨みのある味。
⑨始禄 純米酒 ホッとひといき 16BY 火入
16BYと思えない軽い味、異臭無く後口も良い。冷やで食中酒として楽しめる。
⑩天領古酒 大吟醸
穏やかにバランスのとれた旨みが広がり、後口の綺麗さが印象的。天狗舞 古古酒大吟醸と同じ世界である。3年以上熟成されたものだが、どちらも老香は全く感じない。
特殊な古酒として巡り逢えたものがある。
・達磨正宗 寿天喜 肉料理用特別瓶詰 H4.7詰
達磨正宗十五年に比し、酸がこなれて、少し軽い。
・神亀 大古酒 本醸造 昭和54年
化学臭+紹興酒の香り。枯れた酸味。歴史を感じる味。
・神亀 大古酒 純米 昭和56年
老香あり。甘苦で後口にも老香あり。
・神亀 大古酒 純米 昭和57年
紹興酒の香り。軽い酸味、底に苦味、辛み。
新亀の大古酒3種では本醸造が良かった。純米酒でも1年醸造年度が違うだけだが、現時点では可成り違った世界になっている。生まれより育ちなのだろう。
【リキュール】
蔵も新しい試みとして日本酒のリキュールを造っている。
焼酎ではない旨さが日本酒のリキュールにはある。
①三千盛 悠花粋艶(ゆうかすいえん)(バラのリキュール)
鳥取の香り高い薔薇「さ姫」を大吟醸に浸し香りを抽出したリキュール。透明な赤い薔薇の色と薔薇の立ち香がある、人によってはレイシとかブドウとか表現する。 氷砂糖を加えてあるが、適度に苦味、渋みがあるのでべたべたした甘さではなく、大人の味のリキュールである。甘い梅酒がだめな人もこれはいける。
②小左衛門 純米梅酒 2007年6月
純米酒の梅酒。立ち香は梅の香り高い。砂糖入りであるが梅の酸がフルーティでベタベタしない。後口も渋味等の雑味が無くスッキリとしている。残り香も梅の香高い。
【感想】
①2007年は美味しい色々な酒に出会うことの出来た年であった。
データを眺めているとその酒を利いた時の状況を思い出す。時・場所は様々であるがそれぞれいい酒とのいい出逢いであった。
②日本酒の味を考えてみると、日本酒の味は矢張り日本の文化の中にある。日本文化は季節感である。
日本酒も季節感が重要である。搾りたて、霞酒、秋上がり…
季節ごとに味わいが変化する。同じタンクの酒も時の移行と共に味わいも変わっていく。同じ酒と言っても蒸留酒とは違う世界である。
日本酒の味は極論すれば刻一刻と変化している。あの時・あの場所で飲んだあの酒はその場限りのものである。いわばその時その場に立った陽炎(かげろう)の様なものである。その味に再び逢うことは出来ないかもしれない。
今月、岐阜の日本酒の会で、今注目されている蔵の房島屋さんの気鋭の杜氏である所氏に同席させていただいた際、同氏から質問された。
“沢山お酒を飲まれているようですが、どんな酒が美味しかったですか?”
正確に答えようとすると、沢山の銘柄を挙げなければならず、1つ2つでは意を尽くせないので、“日本酒は陽炎のようなもので、これと言うことは難しい...(云々)”と上に書いたような事をお話しした。
はぐらかしたような答えで失礼かなとも思ったが、案に相違して専門家の所氏も同意していただいたのは心強い思いであった。
日本酒の良さは止まったものではなく、時と共に動いていく、移ろいやすいもの・微妙なもの・とらえどころのない儚いものである。写真に例えれば静止画ではなく動画、表現では絵画ではなく映画である。
③日本酒の熟成酒・古酒の世界はこれからである。
ワインの世界ではボジョレも楽しまれるが、本当に高く評価されているのはビンテージの世界である。
ワインの世界では同じ銘柄でも醸造年度によって評価が異なっている。同じ醸造酒である日本酒ではなぜ同じように評価されないのだろうか。
管理が良ければ多くの日本酒は熟成酒の方が美味しい。
冷蔵設備が進歩し、保存方法が研究され、熟成方法が究明されれば日本酒のビンテージの世界が成立するのはそう遠くない事だろう。