蛇笏忌を機に、蛇笏の句の世界を理解するために彼の俳句を集めてみた。
ネット上で読むことのできる句を集めたのだが、流石に大家なので1300を越える句を集めることができた。
これくらいの数になるとコピーを取ってからの整理もかなり手間がかかった。
一人の俳人に近づき、理解をするには、その作句を数多く読むのが、正しい方法だと思う。
蛇笏の代表句として有名な句は、
『
・芋の露連山影を正しうす(1914年作、『山廬集』所収)
・死病得て爪うつくしき火桶かな(1915年作、『山廬集』所収)
・たましひのたとへば秋のほたるかな(1927年作、『山廬集』所収)
・なきがらや秋風かよふ鼻の穴(1927年作、『山廬集』所収)
・をりとりてはらりとおもきすすきかな(1930年作、『山廬集』所収)
・くろがねの秋の風鈴鳴りにけり(1933年作、『霊芝』所収)
・誰彼もあらず一天自尊の秋(晩年の句、『椿花集』所収)
』
だそうだが、これ以外にも良い句が沢山見つけられるはずだ。
個人的には、俳句の格調、幅、言葉の多彩さでは、高濱虚子よりも飯田蛇笏のほうが上だと思う。
(但し書き:
・以下の句はネット上で蛇笏の句と書かれていたものを集めたもの。
・間違って記載している人もいるかも知れない。
・句集で裏付けはしていないので、厳密性は保証できない。
・とりあえず、蛇笏の句を多く読むための資料としての位置づけ。
・蛇笏の世界の理解を深める動きが出ている様で、(その5)の末に【飯田蛇笏データ】として掲載した。
・頭の数字は単なる番号で意味はない。
)
0001 十字架祭看護婦いでて秋花剪る
0002 桐一葉月光噎ぶごとくなり
0003 苔庭に冷雨たたへてうすもみぢ
0004 山雲にかへす谺やけらつゝき
0005 岩礁の瀬にながれもす鮑取
0006 こころざし今日にあり落花ふむ
0007 日輪にひゞきてとべる薔薇の虫
0008 大空に富士澄む罌粟の真夏かな
0009 清水湊富士たかすぎて暮の春
0010 山藤の雲がかりしてさきにけり
0011 日にむいて春昼くらし菊根分
0012 麦の秋山端の風に星光る
0013 涼あらた畦こす水の浮藻草
0014 渓橋に傘さして佇つや五月雨
0015 恋ごころより情こもる菊枕
0016 貧農は弥陀にすがりて韮摘める
0017 蘭あをく雨蕭々とくすり掘る
0018 老鶯も過ぎし女院の膝の前
0019 夏雨や川虫淵をながれ出る
0020 白牡丹萼をあらはにくづれけり
0021 雪解富士樹海は雲をあらしめず
0022 青踏むや鞍馬をさして雲の脚
0023 中年の保養に倦みし藍浴衣
0024 旅舎の窓遅月さしてリラの花
0025 菱採のはなるる一人雨の中
0026 人肌のつめたくいとし秋の帽
0027 滝のぼる蝶を見かけし富士道者
0028 虻せはし肉うちふるふ洗ひ馬
0029 昏々と病者のねむる五月雨
0030 舟に落ちて松毬かろし餘花の岸
0031 夏空に地の量感あらがへり
0032 焼嶽に月のいざよふ雪解かな
0033 夏真昼死は半眼に人をみる
0034 病牛がサフランねぶる春の影
0035 河鹿なきおそ月滝をてらしけり
0036 山裾のありなしの日や吾亦紅
0037 冬の蝿ほとけをさがす臥戸かな (病中)
0038 音にして夜風のこぼす零余子かな
0039 うち水にはねて幽かや水馬
0040 土器にともし火もゆる神楽かな
0041 山深き瀬に沿う路の寒旱
0042 塩漬の梅実いよいよ青かりき
0043 三四本花さく萱の伏しにけり
0044 どんよりと夏嶺まぢかく蔬菜園
0045 わがこゑののこれる耳や福は内
0046 葦の間の泥ながるるよ汐干潟
0047 なきがらのはしらをつかむ炬燵かな
0048 薔薇つけし葉のきわやかに甕の水
0049 湯婆こぼす垣の暮雪となりにけり
0050 みな月の日に透く竹の古葉かな
0051 とどめたる男のなみだ夏灯
0052 山牛蒡の咲きたる馬柵の霧がくれ
0053 冬灯死は容顔に遠からず
0054 黄落のつゞくかぎりの街景色
0055 燈台に灯すこころや秋隣り
0056 抱へたる大緋手鞠に酔ふごとし
0057 啓蟄のいとし児ひとりよち~と
0058 南無鵜川盆花ながれかはしけり
0059 深草のゆかりの宿の端午かな
0060 ことごとくつゆくさ咲きて狐雨
0061 夕霧に邯鄲のやむ山の草
0062 慾なしといふにもあらず初浴衣
0063 形代やたもとかはして浮き沈み
0064 夏襟をくつろぐるとき守宮鳴く
0065 蝉なきて夜を氾濫の水ふえぬ
0066 はつ秋や嫁姑と一と日旅
0067 秋たつや川瀬にまじる風の音
0068 高浪にかくるる秋の燕かな
0069 三伏の月の小ささや焼ヶ嶽
0070 後架にも竹の葉降りて薄暑かな
0071 葦咲いて蜑の通ひ路ながし吹く
0072 盆の昼人に背見せて閑談す
0073 滝津瀬に三日月の金さしにけり
0074 雪晴れて大瀬波うつスキー行
0075 対岸の模糊に鶯うつりけり
0076 秋の昼一基の墓のかすみたる
0077 夏寒くあるく園生の青すゝき
0078 夜は夜の白雲靆きて秋の嶽
0079 高嶺並む広袤に住み鍬はじめ
0080 日に顫ふしばしの影や鶏乳む
0081 鳳輦は沼津につきぬ雪解富士
0082 こたへなき雪山宙に労働歌
0083 初袷流離の膝をまじへけり
0084 またおちてぬれ葉にとまる茄子の花
0085 ほととぎす鳴きて遠めく山の滝
0086 深山空寒日輪のゆるるさま
0087 はつ雁に暮煙を上ぐる瀬田の茶屋
0088 情婦を訪ふ途次勝ちさるや草相撲
0089 いち早く日暮るる蝉の鳴きにけり
0090 鼈(すつぽん)をくびきる夏のうす刃かな
0091 八重椿蒼土ぬくくうゑられぬ
0092 露ざむの情くれなゐに千草かな
0093 秋たつときけばきかるる山の音
0094 牛曳いて四山の秋や古酒の酔
0095 夏至白夜浪たちしらむ漁港かな
0096 山の童木菟とらへたる鬨あげぬ
0097 冬ぬくく地の意にかなひ水移る
0098 靴下の淡墨にしてさくら狩り
0099 南蛮の日向すずろにふまれけり
0100 小降りして山風のたつ麦の秋
0101 芽牡丹やみつのごとくに御所の雨
0102 没日影葵をそめて竹落葉
0103 余花の峰うす雲城に通ひけり
0104 終戦の夜のあけしらむ天の川
0105 薮なかや朽ち垣ぬらす初時雨
0106 頬あかきグリルのをとめ聖週期
0107 滝おもて雲おし移る立夏かな
0108 露の瀬にかゝりて螻蛄のながれけり
0109 収穫すキャベツ白磁に蔬菜籠
0110 汁なくて厭き~くらふ雑煮かな
0111 高波にかくるゝ秋のつばめかな
0112 万斛のつゆの朝夕唐からし
0113 遊楽の夜を蒸す翳に謝肉祭
0114 開帳の破れ鐘つくや深山寺
0115 極月やかたむけすつる枡のちり
0116 放心にひまなくもゆる除夜の炉火
0117 冬の水すこし掬む手にさからへり
0118 水門や木目にすがる秋の蝿
0119 みすゞかる信濃をとめに茸問はな
0120 うつうつと大獄の昼躑躅咲く
0121 木曽人は花にたがやす檜笠かな
0122 はや吊りて夢幻のおもひ高燈籠
0123 金華山軽雷北に鵜飼了ふ
0124 ぬぎ捨てし人のぬくみや花ごろも
0125 夏館老尼も泊りながし吹く
0126 水喧嘩墨雲月をながしけり
0127 ふた親にたちまちわかれ霜のこゑ
0128 白昼のむら雲四方に蕃茄熟る
0129 船暑し干潟へおろす米俵
0130 罠のへにたちどまりたる鶫かな
0131 負馬の眼のまじ~と人を視る
0132 蝶颯つと展墓の花を摶ちにけり
0133 うつりすぐ善女善男鴛鴦の水
0134 一時領七谷植うる木の実かな
0135 鮒膾瀬多の橋裏にさす日かな
0136 老鹿の眼のたゞふくむ涙かな
0137 寒波きぬ信濃へつづく山河澄み
0138 草いきれ女童(めろ)会釈してゆきにけり
0139 街路樹に旧正月の鸚鵡館
0140 秋の山國土安泰の相(すがた)かな
0141 はつ機の産屋ヶ岬にひびくなり
0142 かりかりと残雪を喰み橇をひく
0143 年木割かけ声すればあやまたず
0144 八重むぐら瀬をさへぎりて梅雨湿り
0145 東風の月祷りの鐘もならざりき
0146 くちなしの花さき闇の月贏(や)せぬ
0147 禽むるる大椿樹下に黐搗けり
0148 夏草に五月の雉子のたまごかな
0149 単衣着の襟の青滋にこゝろあり
0150 柚の花につきてぞ上る烏蝶
0151 葉ざくらに人こそしらね月繊そる
0152 北辺の聖夜にあへる樹氷かな
0153 こくげんをわきまふ寒の嶽颪
0154 とりすてゝ鈴蘭の香の地に浮く
0155 春暑く旅人づれの肉を焼く
0156 雹晴れて渡舟へんぽんと山おろし
0157 初湯出しししむら湯気をはなちけり
0158 深山の日のたはむるる秋の空
0159 雲しろむけふこのごろの花供養
0160 寒の凪ぎ歩行のもつれ如何せん
0161 いくもどりつばさそよがすあきつかな
0162 落日に蹴合へる鶏や鳳仙花
0163 市街の灯見るは雲の間夜の秋
0164 南方の空のむら雲鶏頭花
0165 芋の花月夜をさきて無尽講
0166 高原の夜に入る天の夏ひばり
0167 大つぶの寒卵おく襤褸の上
0168 皿を垂りしづくす秋の大山女魚
0169 児をだいて日々のうれひに鰯雲
0170 雲漢の初夜すぎにけり磧
0171 磯貝の潮がくり咲く薄暑かな
0172 濁流に日影かするる青すすき
0173 炭焼きて孤りが年を惜しまざる
0174 後山へ霜降月の橋をふむ
0175 秋冷のまなじりにあるみだれ髪
0176 水底に仰向きしづむおちつばき
0177 みづどりにさむきこゝろを蔽ひけり
0178 三月や廊の花ふむ薄草履
0179 落飾の深窓にしてはつ日記
0180 法廷や八朔照りのカンナ見ゆ
0181 湖波の畔にたゝみて蓼涵る
0182 宵浅く柚子そこはかと匂ふなる
0183 物おちて水うつおとや夜半の冬
0184 弥生尽山坂の靄あるごとし
0185 籠にして百草夏のにほひかな
0186 山寺や斎の冬瓜きざむ音
0187 夏旅や俄か鐘きく善光寺
0188 大揚羽ゆらりと岨の花に酔ふ
0189 渓川のしのつく雨に盆送り
0190 家路の娘玉菜を抱きて幸福に
0191 ふりやみて巌になじむたまあられ
0192 日短くつくづくいやなふかなさけ
0193 夏の雨草井に日影残りけり
0194 行秋や案山子の袖の草虱
0195 凍てに寝て笑む淋しさを誰か知る
0196 河岸をゆく羽織たらりと霜日和
0197 陶に似て窓のアルプス聖母祭
0198 大巌にまどろみさめぬ秋の山
0199 かな~の鳴きうつりけり夜明雲
0200 風冴えて高嶺紺青雪のこる
0201 ゆく秋や案山子の袖の草虱
0202 晴るる日も嶽鬱々と朴咲けり
0203 強霜や朝あかねして駒の嶮
0204 豌豆の手の枯れ竹に親すずめ
0205 撃ちとつて艶なやましき雉子かな
0206 鉄橋に水ゆたかなる冬日和
0207 閑談のふところにして寒卵
0208 雲水の跫音もなく土凍てぬ
0209 たぎつ瀬にえびづるのつゆしたたれり
0210 児を抱いて尼美しき霊祭
0211 なきからや秋風かよふ鼻の穴
0212 秋虹をしばらく仰ぐ草刈女
0213 火山湖の高浪をきく余寒かな
0214 芋の露連山影を正うす
0215 寒灸や悪女の頸のにほはしき
0216 蕗隠しに轡かかりて暮雪ふる
0217 蘆花旧廬灰しろたへに春火桶
0218 筆硯に多少のちりも良夜かな
0219 草川のそよりともせぬ曼珠沙華
0220 鞴火のころげあるきて霜夜かな
0221 国原の水たてよこに彼岸鐘
0222 東風の陽の吹かれゆがみて見ゆるかな
0223 しもつきや大瀬にうかぶ詣船
0224 死火山の膚つめたくて草苺
0225 雲表にみゆる山巓初昔
0226 雪幽くつのりて軍靴湧くごとし
0227 降る雪や玉のごとくにランプ拭く
0228 就中学窓の灯や露の中
0229 雪山を匐ひまわりゐる谺かな
0230 灯をさげて観音寺みち秋の夜
0231 寒濤に鴨たちあがる日和かな
0232 渓沿ひに女礼の登る深山寺
0233 水仙に湯をいでて穿く毛足袋かな
0234 盆の雨車前草はやくぬれにけり
0235 夜の蝶人をおかさず水に落つ
0236 笛ふいて夜涼にたへぬ盲かな
0237 冬瀧のきけば相つぐこだまかな
0238 秋日和なかなか売れぬ樒かな
0239 ふりやみていはほになじむ玉あられ
0240 大乳房たぷたぷ垂れて蚕飼かな
0241 戦死報秋の日くれてきたりけり
0242 山かけて朝虹ちかく茄子咲けり
0243 とくはしる水蜘蛛ありて秋の虹
0244 雲ふかく蓬莱かざる山廬かな
0245 海ぬれて砂丘の風に桃咲けり
0246 つかのまの絃歌ひびきて秋の海
0247 たらの芽やからびしをれて籠の目に
0248 郭公啼く青一色の深山晴れ
0249 文机にめむきうたたね春嵐
0250 秋の雪北嶽たかくなりにけり
0251 ひややかに人住める地の起伏あり
0252 先着にあな幣尊と紅葉山
0253 雲はうてつゆあけの嶺遠からぬ
0254 秋が見てゐる陶の卵かな
0255 月光をふるはす桐の虫一つ
0256 ねざめたるはだへひやゝか蚊帳の闇
0257 秋の像ともがきをみつ父をみる
0258 双燕のもつれたかみて槻の風
0259 仲秋や火星に遠き人ごゝろ
0260 去年今年闇にかなづる深山川
0261 荒藪の鉄線花咲く欅の木
0262 帯の上の乳にこだはりて扇さす
0263 唾はいて幽かに石蕗の月に閉づ
0264 ねむる間に葉月過ぎるか盆の月
0265 神は地上におはし給はず冬の虹
0266 報恩講後山西日の影流れ
0267 山百合にねむれる馬や靄の中
0268 口紅の玉虫いろに残暑かな
0269 茶の木咲きいしぶみ古ぶ寒露かな
0270 浮き草にながあめあがる落花かな
0271 喬槻に渓のとどろき夏来る
0272 天をとび樋の水をゆく蒲の絮
0273 陽にむいて春昼くらし菊根分
0274 雪に辞す人に手燭をこゝろより
0275 山風に北窓閉すやところせく
0276 地と水と人をわかちて秋日澄む
0277 二三人薄月の夜や人丸忌
0278 一生を賭けし俳諧春の燭
0279 名月や宵すぐるまの心せき
0280 キヤベツとる娘が帯の手の臙脂色
0281 夏風や竹をほぐるゝ黄領蛇(さとめぐり)
0282 山滝に日射すとみゆれ懸巣翔ぶ
0283 おほぎやうに牡丹嗅ぐ娘の軽羅かな
0284 寝しづみて老が火を吹く寒の闇
0285 あしおともたてず悪友霜を来ぬ
0286 碧落に日の座しづまり猟期来ぬ
0287 小富士訪ふ閉山季の法印と
0288 山茱萸の風にゆれあふ実を択りぬ
0289 山塊を雲の間にして夏つばめ
0290 薔薇園一夫多妻の場を思ふ
0291 日ざかりやおのが影追ふ蓬原
0292 樋水ます雨に花さく野蒜かな
0293 日も月も大雪渓の真夏空
0294 果樹園をぬけて産院四温光
0295 お涅槃に女童の白指触れたりし
0296 遠足児よどむに乳牛尾をふりて
0297 胃洗ふて病院桐の秋濶し
0298 頬を掌におきてしんじつ虫の夜
0299 蜆川うす曇りして水の濃き
0300 寒を盈つ月金剛のみどりかな