現代の世界・社会を鋭く追う「クローズアップ現代」だが、今日はすこし違っていた。癒しの番組だった。 芸術・宗教・こころ・人間・いのち・生の営み・輪廻...生命が生きることを取り上げていた。最も印象的なシーンは、知的で美しく、いつも常に冷静な国谷キャスターの目から流れた一筋の涙だった。『クローズアップ現代「風の画家・中島潔 "いのち"を描く」放送日 :2010年 5月 31日(月) 番組HP: http://www.nhk.or.jp/g...
現代の世界・社会を鋭く追う「クローズアップ現代」だが、今日はすこし違っていた。
癒しの番組だった。
芸術・宗教・こころ・人間・いのち・生の営み・輪廻...生命が生きることを取り上げていた。
最も印象的なシーンは、知的で美しく、いつも常に冷静な国谷キャスターの目から流れた一筋の涙だった。
『クローズアップ現代「風の画家・中島潔 "いのち"を描く」
放送日 :2010年 5月 31日(月)
番組HP: http://www.nhk.or.jp/gendai/
郷愁あふれる童画で知られる"風の画家"中島潔さん。5年をかけた46枚のふすま絵が先月清水寺で公開された。独学で学んだ画家としては極めて異例の挑戦。その世界に迫る
出演:
日本画家…中島潔, 【キャスター】国谷裕子』(NHK)
『風の画家・中島潔 "いのち"を描く
(NO.2897)内容紹介
日本画壇で異彩を放つ"風の画家"中島潔(67)。NHKみんなのうたなどで親しまれたノスタルジーあふれる童画にはじまり、源氏物語や詩人・金子みすゞの世界を描いた絵などで、国内だけでなく、海外でも高い評価・人気を誇る。その中島が、「生涯で最高の仕事」として取り組んできた46枚のふすま絵が完成。京都・清水寺の成就院で4月末、公開された。日本画の伝統とは無縁の画家が、1200年の歴史を誇る名刹でふすま絵を描くのは極めて異例。中島は、ここで、終生のテーマでもある「いのちの無常と輝き」を表現するため、過去何度も描いてきた金子みすずの代表的な詩「大漁」を4たびテーマに選んだ。中島が5年をかけてひたすら描き続けたイワシの大群の絵は、圧倒的な存在感を放つ。「風の画家」が現代に発する「いのち」のメッセージに迫る。』(NHK)
中島潔は知らない画家だった。
故郷や子どもを描いてきた画家で、画面には風がながれているので「風の画家」と呼ばれているそうだ。
日本画の正統からは外れている画家だ。
芸大卒業海外留学の道を歩んではいない。
画壇からは離れている。
劇団で言えば、梨園ではなく地方廻りの大衆演劇だ。
5年前清水寺に今迄の自分の画業を集大成したものを書かせて欲しいと志願し、46枚の襖絵を完成し、清水寺成就院に奉納した。
NHKは襖絵が完成する前から、熱海にある中島潔のアトリエにカメラを入れ、製作現場を撮り続けてきた。
完成してから、国谷キャスターがアトリエを訪問し、中島にインタビューを行う。
国谷キャスターは質問する。
"中島さんにとって、このアトリエはどんなところですか"
中島は、答える。
"自分の画きたいものを此処で画かなければ後で後悔する
五年間自分の集大成を画いてきた場所、全てを描ききった。
今ではもう入りたくない場所である"
完成した46枚の襖絵は清水寺・成就院に奉納され、4月24日~5月9日まで一般公開が行われた。
46枚の襖絵は、中島潔の画業の集大成である。
見物した男性が息が出来ないと言った襖絵がある。
今迄の中島の絵とは違った力が描かれており、見る人を圧倒する。
鰯と子どもをモチーフにした「大漁」である。
若くして幼子を残して自ら命を絶った金子みすずの詩「大漁」を読んで、心を衝かれて描いた絵である。
「
大漁
朝焼け小焼だ
大漁だ
大羽鰮(いわし)の
大漁だ。
浜は祭りの
ようだけど
海のなかでは
何万の
鰮のとむらい
するだろう
」
中島は、金子の大漁を読んで、ものの見方を教えられた、変わったと言う。
大漁を喜ぶ人間と海の中での鰯の悲しみ。
鰯の弱い命を奪わねばならない人間の業。
中島は、これまで3つの「大漁」を画いてきた。
第1作。
大漁の浜辺で、少女は海を見ている。
その中で何万匹もの鰯の弔いが行われている。
第2作。
第1作と同じだが、大漁を祝う漁師の家族と鰯が画かれている。
鰯の大群が描かれている。
少女は、鰯が流れ去る方向を見つめている。
この第3作は海外では高い評価を受けた。
だが中島は、描ききれなかったと思っていた。
「あまりにも思い入れが強すぎて、鰯を悲しみの中だけに置いてしまった」と言う。
46枚の襖絵を締めくくるのが今回の「大漁」である。
18才で母親を亡くして、2ヶ月で再婚した父親に反発して家を飛び出した、
母の死をきっかけにして、父親への反発。憎しみが原動力となり絵を描かせた。
生活をするために絵を描いて生きてきた。
中島は述懐する。
"父親が死んでも自分は動揺しないと思っていた。しかし、実際は違いました。かなり動揺しました。
人間ていうのは結局どうしょうもないこともある。
それでも生きていかなきゃならない
自分は父親が死なないとその事が解らなかった
愚かさというですかね。
第3作は鰯を悲しみだけの中に置いてしまった。命の儚さだけを描くのではなく、今回は命の力強さ・凄まじさ・その輝きを描きたい。"
第4作は、襖8枚の大作である。
右から左に、右上から下に、下から左上に鰯の大群が動いている。
少女が鰯が流れてくる方に顔を向けている。
少女の目は鰯の大群、一匹一匹を見つめている。
描かれている鰯の目は写真で見る鰯の目ではない。
大群の鰯の目は白く、不気味ですらある。
TVの画面は、インタビューから「大漁」作成の最後の場面に戻る。
左上の最後の一匹の眼を描く。
この鰯は群れの先頭の鰯だ。
中島は語る。
"なるべくきつい顔じゃなくて
すこし優しい顔にした
穏和な顔つきに。"
国谷が中島に聞く
"あの少女は中島さんご自身の姿ですか?"
中島は答える
"そうですね。
(間をおいて)
その鰯を受け止めている表情は私ですね
やっと強く成れたかなと言う思いがしましたかね
前回までは金子みすずの大漁だったが、今回の絵は自分の大漁が画けたかなと思っている
命の輝きを画けた
生まれて死ぬ命だが、死んだから無くなるものではない
命は消えても残り繋がっていく"
国谷が聞く。
"先頭の鰯は穏和な顔つきにした。と話されましたね"
中島が答える。
"この鰯はすべての鰯の気持ちを受け止めて天に向かう。
自分の思いのすべてをあの眼の中に納めた。"
国谷が聞く。
"あの鰯はお母さんではないですか。"
中島がボソボソと答える。
"母親の下に行ってくれればいいですね
(間をおいて)
一番後悔することはお礼を言えなかったことです、母親に対して"
中島が語る母への思いを聞いている国谷キャスターの目が突然潤み、涙が一筋頬を伝わって流れた。
このシーンが一番感動的なシーンかも知れない。
この涙が、今日の番組の価値を決めている。
中島が言う。
"この場所(清水寺・成就院)は仏様の場所なんですよね
だから届くかなと思って"
大群を率いて、天に向かう先頭の鰯が番組の最後に写される。
鰯の目には月の光が映る。
【データ】
<中島潔>
・プロフィール:
1943 満州に生まれる。1歳で両親の故郷、佐賀へ戻る
1961 高校卒業後上京し、働きながら独学で絵の勉強をする
1964 広告会社に就職し、アートディレクターとして数々の賞を受賞
1971 渡欧し、美術学校へ通う
1976 広告会社を退職し、フリーのイラストレーターとなる
1982 NHKみんなのうた等のイメージ画を手がけ、一躍注目を浴びる。初個展開催
1987 ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞受賞
1990 北京で初の海外展を開催
1998 画業30年を記念して、7年の歳月をかけて完成させた「源氏物語五十四帖」を発表
現在 パリに長期滞在しての制作、京都・清水寺襖絵の制作など精力的に活動している 」(SPYSEE より転載)
・「風の画家」に付いては以下を参照。
http://www.ueno-mori.org/special/nakajimakiyoshi/index.html
http://blog.goo.ne.jp/nobuyoshi65/e/ea8356475644fa08796d556514aba249
・襖絵奉納の記事
『中島潔さん 京都・清水寺にふすま絵奉納
唐津市厳木町出身で、叙情的な画風が人気の日本画家、中島潔さん(66)が清水寺塔頭(たっちゅう)成就院(京都市東山区)に4部屋46面のふすま絵を奉納し、報道陣に23日公開された。
ふすま絵は「かぐや姫」「風の故郷ふるさと」、詩人金子みすゞをモデルにした「大漁」で構成する。中島さんは2005年春に同寺を訪問し、その際、観音の慈悲の心を絵にして奉納したいと希望。制作が許され、先月下旬に完成させた。
「大漁」にはイワシの大群が描かれ、中島さんは「弱い命ほど一番輝く。それを表現した」と説明。「(ふすま絵には)生きる姿を描いており、悲しいこと苦しいことがあっても、絵を見て一瞬それを忘れてもらえれば」と話した。
成就院は24日~5月9日にふすま絵を公開する。大人千円。
』(佐賀新聞)
・清水寺・成就院 中島潔氏襖絵展の様子
「京の四季 名勝散策 写真集」
http://blog.goo.ne.jp/kappou-fujiwara/e/9046ca643a559f0a885f81cd9ac05161
中島潔の「成就院ふすま絵」が再展示されるそうである。
ところ:清水寺・成就院
とき:2010年8月6日(金)~8月16日(月)
<金子みすず>
「大漁」他珠玉の詩を残して命を絶った金子みすずは長く埋れていたが、近年再発見された。
Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E5%AD%90%E3%81%BF%E3%81%99%E3%82%9E
「金子みすヾWorld」
http://www.owari.ne.jp/~fukuzawa/misuzu0,.htm
こんばんは。
コメントありがとうございます。
感動って良いですね。
生きていてよかったと実感できる瞬間ですね。
金子みすずの詩に中島潔画家が感動し、絵を書く。
中島画家の話を聞いて国谷キャスターの眼に涙が浮かぶ。
今日はえどりんさんが感動。
感動の連鎖が続いていきます。
素直に感動できれば、人生も楽しいですね。