岐阜中島屋さん主催の日本酒の会、216回の歴史を誇る日本酒の会である。
副題は「楮さんで夏の酒会」。
前回のざっぶんの会には出席できなかったので、今回は会場が楮でもあり、明日のことを考えず参加した。
楮の離れは12人枠だったが、最終20名近くの集いになった。
配布された「利き酒メモ」を見ると、出品酒は18本もある。
熟成酒の項を見ると17年熟成とかとんでもないものが載っている。
カンターに熟成酒が並び時を待っていた。西川店主によれば、香りを調整するために、開栓して開始の時を待たせているとのことである。

日本酒の会のA氏、Mさんも到着し、その他見慣れた顔ぶれの参加者だが、知らない人も数人見える。
西川店主の開会宣言の後、房島屋所杜氏の音頭でシャンパン風の日本酒で乾杯である。

甘くフルーティ、知らされなければ、多くの人は、これが日本酒とは思わないだろう。
【今日の出品酒】
所杜氏が参加されている房島屋の酒。夏の酒を楮の料理と共に楽しむ趣向の他、例月の様に<純米酒><今日の贅沢・吟醸酒飲み比べ><熟・醇を飲む>コーナーがある。
合計18本、多彩な顔ぶれである。
<乾杯>
①一ノ蔵 すず音(ね) 純米 薄にごり 発泡酒 生酒 一ノ蔵(宮城)
甘い入り口、酸味はある味。大きめの泡の発泡あり、細かい泡でないのでピリピリせず大らかである。後口はサッパリしている。一言で言えばシャンパン、サイダー。
<「房島屋」 夏のお酒の楽しみ方>
②房島屋 純米吟醸 兎心(ところ) おりがらみ 所酒造 (岐阜)
薄にごりの霞酒。甘い入り口発泡感あり。苦味と辛味の味、酸はサッパリした酸。後口は辛口。
この酒は独自な世界を感じる。日本文化の中間色の世界ではなく、メリハリの利い
たアメリカンの世界と言ったら適当なのだろうか。ハードボイルドの世界でもある。ビールのASAHIのように若者に愛される可能性がある。
ビールの表現のようになるが味わいは、Bitter&Dryである。
③房島屋 純米65無濾過生 9号系酵母 所酒造(岐阜)
ぴりっとした入り口。酸より辛味の味。後口はスッキリしている。
④房島屋 純米65無濾過生 9号系、7号酵母ブレンド 所酒造(岐阜)
まったりとした厚みのある酒。底に苦味あり。後口は辛味系。
⑤房島屋 純米65 生詰 所酒造(岐阜)
厚みのあるトロリとした味。底に苦辛あり。後口はよい
⑥房島屋 純米65火入れ熟成 燗酒 所酒造(岐阜)
果実系の立ち香が出て、甘味がある。後口はピリ辛系。
筆者の感覚では、今日の房島屋の酒は夏に相応しくBitter&Dryである。苦さ・辛さが夏のだるさを飛ばしてくれそうである。料理は必ずしも和食ではなく、肉などこってりしたものと合わせ夏を乗り切れそうだ。
<今日の純米酒>
⑦信濃鶴 純米 しぼりたて生酒 酒造株式会社長生社(長野)
香りよい、甘い入り口。スッキリした酸の味の後パンチのある苦辛が来る。後口は辛く重い。温度が上がると後口は軽くなる。評価7.5。
⑧梵 特釀 特別限定純米 磨き五割八分 加藤吉平商店 (福井)
スッキリとした入り口、甘味酸の味は感じないバランスの取れた厚みのある味。苦辛もない。後口もスムーズで良い。評価8.5。
これは良い酒である。媚びたところが無く、スッキリとバランスが取れている。氷温長期熟成の梵らしく落ち着いた酸があり、冷や・燗どちらでも良さそうな感じがする。癖がないので料理も和食から洋食まで合いそうな感じである。
梵の上級酒はこなれすぎている感じがするものがあるが、これは丁度良いような印象である。
⑨日高見 超辛口 純米 (株)平孝酒造(宮城)
スッキリ、まったりとしたバランスの取れた味後口までは、梵に似ているが、後口が比較して辛い。評価8.0。
⑩墨廻江 特別純米 雄町 墨廼江酒造(宮城)
酸味の厚い旨みのある酒。苦辛はない。後口良い。評価7.5。
<今日の贅沢・吟醸酒飲み比べ>
⑪蓬莱泉 一念不動 純米大吟醸 夢山水 関谷醸造(愛知)
立ち香はない。まったりとして厚みのある味、バランス取れている。甘味はない。後口はやや重い。評価8.5。
初めて利く酒である。後で気付いたが、一念不動の夢山水は特別純米、純米大吟醸は兵庫山田錦のはずである。
これは夢山水の純米大吟醸である。限定流通のものらしい。
⑫南部美人 限定大吟醸 中汲み (株)南部美人(岩手)
甘い入り口。酸の厚みのある味。苦味が底にある。後口はやや重い。評価8.5。
大吟醸なので軽い広がりのある世界を期待したが、純米大吟醸のような厚みとふくらみのある世界であった。前の席の方も、これは本当に大吟醸かとラベルを見てアル添を確認していた。
⑬神の井 寒九の酒 純米大吟醸 雫取り 神の井酒造(愛知)
甘い入り口、軽く広がる世界の後、厚みのある酸のふくらみがある。苦みは底にある。後口はよい。評価9.0。
味の濃い酸のふくらみのある出品酒が多い中、軽い大吟醸を得意とする神の井に期待したが、神の井にしては酸のふくらみが大きい。純米大吟醸であるから理解できなくもない。
⑭天狗舞 石蔵 純米大吟醸 (株)車多酒造(石川)
スッキリした入り口。偏りのない味わい。後口は軽い辛味系。やや重い。一念不動に似た印象。評価8.5。
<熟・醇を飲む>
⑮獺祭 純吟50 遠心分離 生 2001年1月瓶詰 旭酒造(山口)
立ち香カラメル系、エチル系の香りもあり。甘い軽い入り口。酸はあまり感じない、甘く感じる。残り香は軽い老香。評価8.0。
⑯乃誉 生酛吟醸生 1999年1月瓶詰 須藤本家(茨城)
老香は全くない。落ち着いた酸のふくらみあり、嫌な癖のない味である。後口も良い。まだ現役の味である。評価9.5。
⑰琉の扇 山廃純米生詰 1998年10月瓶詰 富士高砂酒造(静岡)
エチル系の香り。甘い入り口の後苦味、舌で探ると酸も辛味もある。後口は辛味系。評価8.0。
⑱縄文吟醸 能代 吟醸生 1991年3月瓶詰 喜久水酒造合資 (秋田)
カラメルの香り。味は厚みのある味、ピークは過ぎた感じ。残り香もカラメル系。評価8.0。
このコーナーは、飲んでみなければ判らないコーナーである。最低でも7年以上熟成、最高は17年の熟成酒である。
意図された熟成なのか、意図せざる熟成なのか判らない。例えは悪いが、法律用語に「故意」・「過失」がある。
「故意」は、こうすればこうなると承知の上で敢えて行うこと。
「過失」は、こうすればこうなると承知しているが、不注意でそうしてしまったということ。らしい。
「未必の故意」と言う概念もある。ある行為が必ずしも結果を生じさせると確信しているわけではないが、もしかしたら結果が生じるかもしれないと思いながら、その結果が生じても構わないと思いつつ行為を行った場合をいうらしい。
「認識ある過失」と言う概念もあるらしいが、話が混乱するから止めよう。
何故17年の熟成酒が冷蔵庫に存在するのか、しかも生酒である。その真実は西川店主しか判らない。
法律学的、経済学的分析は兎も角、問題は熟成酒の味と香りである。
⑯乃誉は今でも問題なく熟成の銘酒である。生酒が8年を経過して、酸の豊かさを失っていないのは、生酛の造りだからなのであろうか。
⑱の能代をどう評価するか。味と香りはピークを過ぎているように思えるが、それだけの評価では済まないものがある。
瓶の中には17年の歳月が詰まっている。他に手に入れることの出来ない稀覯物である。その希少性の前には、味も香りもすべて許されると言う評価が当然存在する。
台風も、地震も、無差別殺人もある世の中である、今、能代を買って、17年後に自分が生きてそれを飲む事が出来る保証はないのだから。
【今日の料理】
楮は創作の和料理である。今日も力が入った料理を楽しむことが出来た。
夏の酒に合わせ、特に房島屋の兎心に合わせたメニューになっている。

高知のフルーツトマト、バジルソース、レモン添え。

天然鯛と山菜の合わせ焼。
写真無し。
ワイングラスに入れられた房島屋兎心。
房島屋兎心に卵白を加え、甘味を足してホイップした白い泡雪状の物がワイングラスに入っている。
その下には蛤の蒸し物が入っており、上からスプーンで掬っていくと味の変化を楽しむことが出来る。
ホイップされた兎心は微かに苦く、夏の清涼感があり、下の蛤は旨みがある。

辛味大根とカラスミ。
カラスミというのは、当たり前だが日本酒の肴にピッタリとする。
こくのある旨みが口に広がり日本酒の酸に合う。

スイートコーンとオクラ。出汁の中にはジュンサイが泳いでいる。
夏の季節の恵みである。
コーンはフルーツのように甘く、ジュンサイはほろ苦い。

ズイキと金太郎瓜の冷やし物。
ズイキはサッパリとした歯触り、瓜は果物の甘さ。

平目の昆布締め、長いもの短冊、焼枝豆、焼椎茸、
茄子の蒸し物を大葉で巻き梅肉を添えた物
以上の物が、ぶっかき氷の上に乗せられている。

夏の魚、鮎の笹煮、三つ葉、酢橘添え。
長時間煮てあるので、頭からすべて食べることが出来る。

今話題の飛騨牛の朴葉味噌焼、青とうからし。
高山、その他で食べた朴葉味噌焼は、味噌が辛く味噌は邪魔でしかなかった。
この味噌は金山寺味噌を若々しくしたような食感と甘さがあり、味噌が牛肉の乳臭さを引き立てている。
初めて味噌の意味が理解できた。

穴子と大根の山椒ステーキ。
山椒の香りが快い。

炊き込み御飯とナメコの赤だし。
御飯はうすいピンク色に見えたが、聞くと薄口醤油に出汁と生姜のみじん切りを加え炊いた物。

漬け物。

琵琶とシャーベットのデザート。
楮の料理は力の入った物で、考えて手を掛けて創られていることが判る。
誰かももう満腹だと言っていた。そんな充実感があった。
終了予定時刻の午後10時になった。
宴はまだ途中であったが、明日のことも考え、遠路組みのMさんと房島屋の所杜氏と中座して抜け、岐阜駅に向かった。
帰りの列車の中では、銘酒と美味しい料理に満足した参加者は、ほろ酔いの明るい気分で楽しい会話を続けている...